有終の美


近鉄の最後の勇姿を見ようと詰め掛けた4万8000人。普段は開放していないスコアボード真下のエリアを開放しても、なお立見客が出るという超満員。かくいう自分も席を確保するために昼の1時半から行列の中にいた。


6時。守備につく磯部選手会長にスタンドからコールが起こる。内野応援団、外野応援団、そしてレフトの西武応援団からもコールが起きたときにはもう泣きそうだった。
そして、始まったゲームには「泣いてください」と言わんばかりのドラマが用意されていた。


この日、梨田監督は一切サインは出さず、すべて選手たちの判断に任せていたそうです。監督の仕事は近鉄のためにプレイしてきた選手たちに最後の花道を用意すること。そして同じく近鉄を愛し続けたファンに楽しんでもらうことでした。

高村、小池、岡本、そして赤堀。いずれの選手も近鉄の一時期を築いてきたベテラン達。交代のアナウンスの度にドームは歓声が渦巻き、監督はみずからマウンドでボールを渡した。
打者も総力戦。川口、鷹野、そして今季は故障で棒にふった吉岡らが次々と打席に立った。まるでオールスターでも見ているかのような顔ぶれだった。


中盤には西武ベンチが松坂をマウンドにおくる。防御率トップを狙うための調整と思われるが、それすら西武による近鉄ファンのためのファンサービスにさえ思えた。このユニフォームでは最後となる中村と松坂の対戦時にはドーム中がフラッシュに包まれた。149Km/h、150Km/h、149Km/h。松坂の直球に中村もフルスイングで応える。結果は内野ゴロに打ち取った松坂の勝利だが、ドーム中がこの二人の対戦に拍手を送った。


試合は延長11回、星野のライト線へのサヨナラヒットで劇的に幕を下ろした。優勝を決めた北川のサヨナラを思い出させるように選手達が飛び出し、ドームが揺れた。数々のドラマを生み出してきた近鉄らしい最終戦だった。


試合後に監督、コーチ、選手が球場を1周。西武ナインとも握手を交わしたり抱き合ったり。
もう涙で顔はグショグショ。後ろの席のおっさんがすんごい音痴で、そのくせ声を振り絞って、ところどころヒクヒクしながら応援歌を歌うので、さらに涙が止まらなくなった。バカヤロー。俺だってアンタに負けないくらい愛してたんだよー。


生まれてから今まで当たり前のように側にあったものが消えるってのは言葉に出来ないほど切ないですが、今までお疲れ様でした&ありがとうございました。あと1試合でほんとに最後です。