ASKA×吉田豪 対談 書き起こし
個人的にすごく楽しみにしていた組合せで、そして期待通り非常に濃厚な対談でしたので、ざくっと書き起こして記録として残しておきます。長いです。
あと、フルサイズで4曲も聴けるっていうのは、ほんとネットTV万歳って感じでしたね。
2017年10月30日放送 Abema TV「逆指名インタビュー」
ASKA(以下、A):ネットで(記事を色々)書いていただいて。
吉田豪(以下、吉):認識していただいてる時点で恐縮です。
A:分析もしていただいて、本も読んでいただいて。
吉:グッズも色々買って、今日も着てきてるんですけど。
A:(笑)それは今日狙ってきたでしょ。
吉:いえいえ、結構日常的に着てますし、TVに出る時は積極的に着るようにしてます。
A:ありがとうございます。
A:今日は逆指名インタビューということで。
吉:逆指名の人選が独特ですよね。亀田さんと僕って。
A:両人ともお会いしたかったんですよ。
吉:亀田さんとパンチ力対決をしてほしかったんですけどね。ASKAさんのパンチ力の凄さ、伝説じゃないですか。TVで具志堅用高さんと佐竹雅昭さんと、ゲームセンターのパンチ力を計測する機械で2回とも圧勝してるんですよね。
A:いやいやいや、あれはね、もう古い話ですから(笑)。
吉:ASKA幻想がすごいんですよ、僕の中で。エピソードだらけじゃないですか。
A:そんな、人の人生を漫画みたいにやめて。
吉:だって尊敬する人が王貞治とアントニオ猪木って書いてるのを見た時点で、信用できると思ったんですよ。
A:お好き?
吉:もちろん。昭和の男子はだいたい好きですよ、2人とも。
吉:あの、伝えたいことがあって。今、若いミュージシャンでスカートっていうポップアーティストがいるんですよ。最近メジャーデビューした。ASKAさんの大ファンで、会うたびにCHAGE&ASKAの話をするんですよ。今日も報告して。ものすごい喜んでて。若い世代も慕ってますよ。
A:玉置浩二なんかとも話すんだけど、自分の中では「俺達は時代のシンガーだから、時代時代の歌を歌う歌謡歌手だ」っていうところがどこかにあって。歌謡歌手という言葉は使わないにせよ。だから、その世代の中で残っていけば良いって思ってた。新しい時代には新しいものがでてきて、自分が生きてるこの何十年間を人間はともにしてるわけで、僕たちの知らない世代が来たら残らないって思ってるから、割とそこで冷めたところもあるんだけど。でも、若い子たちが聞いてくれてるっていうことはね、その楽曲が残っていってるんだなと。もしかしたら音楽って残っていくものなのかもしれないなって。若い世代が聴いてくれてるっていうのは非常にありがたいかなぁ。
吉:子供の頃から見てて、なんとなく本当に、失礼な言い方をすると、ちょっと舐めた部分もあると思うんですよ、みなさんは。でも、実際見ると、とんでもないと思うのがその辺の人たちというか。玉置浩二さんもやっぱり生で見るととんでもないわ、この人、って思うし。
A:玉置もすごいからね~。
吉:二人の関係もおもしろいなと思って。
A:あいつはね、毎日遊びに来てた時期があるから。朝7、8時まで家にいて、それから仕事に行くんだけど、「今日はお金がない」って言うから、俺がタクシー代出したんだけど、乗ったタクシーの運転手さんが玉置と同郷の旭川出身だったみたいで、残り全部をチップとして払ったんだよ。なんでお前!金返せよ!って。おもしろい奴ですよ。
吉:飛び入りで歌ったりもされて。
A:奴はね、そういうところ男気があって。男気って言葉使っちゃいけないな。あのような状況だから、玉置が呼んでくれて。
吉:いつまでも歌いたいっていう気持ちがすごい伝わるんですよね、ASKAさんから。
A:それでもね、一時は事件のことがあって、もう歌えないなぁって思って。人前で歌っちゃいけないし、堂々と歌えないんだったらスッパリと辞めなきゃって思う時期もあったりして。ちょっとの時期なんだけどね。諦めに入った時期があって。そんな時にね、「何をほざいてるんだ。ほら、やりますよ。」って言ってくれたんで、あれでハッとして、歌うことができるようになったんだけどね。
吉:それはどういう風に言われたんですか?
A:「とりあえず引退発表を記者会見でするんで。お世話になりました。」って伝えて回ってる時に、「何を言ってるんですか。やりますよ。」っていうひと言で。何かに占領されてたんだね、心の中が。それをいきなりパッて剥がされた感じがして。
吉:それはスタッフの方が?
A:メンバーや仲間内の人間が、1人じゃなくて、みんな同じようなことを言ってくれたので。だから、まだまだやらなきゃいけないなって。
吉:それくらいまで追い込まれてたんですね。
吉:事件の後、お客さんの前出るのって、かなりプレッシャーとかあったんじゃないですか?
A:いや、それはなかったかな。福岡の友達がいきなりそういう場を設けてくれて。お客さんの数は関係なかったから。それは、普通にできたかなぁ。
A:実はね、20年くらい前から今の音楽業界のような状況になることは分かってて。音楽業界はおそらくこのままだと衰退するなと。衰退する原因は僕らにもあるんだけど、あまりにも世の中に迎合しすぎているなと。それに対して今、自分なりに動いてる最中なんだけど。楽しんで作ってるから苦労とは言わないけど、注ぎ込んだ時間とか精神からひっぱり出してきて作品を作ってるのに、それを「聴き放題」っていうね、
吉:海外ではもうそれが主流になって。
A:自分の音楽が「聴き放題」にされていくことへの懸念があって。僕は絶対入らないですよ。そこには。
今回、「Weare」っていうアーティストのための配信サイトを作った。僕は中心ってわけではなく、広報みたいなもので。僕はどこにも制約や束縛がないから何でも発信できるんだってことで、今回発信させていただいてるんだけど。
アーティストが今活動しようにも活動できなくなっていて。もちろん時代の中で常に活動できる人はちゃんと現れるけど、そういう一部の人にスポットを当ててもしょうがない。音楽やってる人が音楽で食べれない状況にどんどん追い込まれてることに危機感を感じなきゃいけない。
吉:CDが売れない時代にどうやっていくかっていう。
A:そうそう。で、売れないからどうしようか。もっと世間が喜ぶように、もっと喜ぶようにしようとして、結局最後に出てきたのは、タダで聴かせるっていうことになっちゃった。そんなことしたらもうミュージシャン出てこないでしょ。
だから、今回僕は配信サイトを立ち上げて、ここで配信音源を買ってくれたらミュージシャンに70%を還元するし、このサイトは一切利益を追求しない、と。本当にそのつもりなのね。だから、公開しろと言われればいつでも数字を公開するしね。だから、今やらないといけないのは、とにかくたくさんのアーティストをここに集めて、ここで配信すること。お金をプールする会社じゃなくて、アーティストが集まるごとに大きくなっていく会社。これは、ずっと前からの構想なんだけど、やっと発表できる段階に来たので。それもこれも自分が今縛られるものがないからしてることなので。これに対しては色々考えることがありますね。
吉:たぶん事件がきっかけになっている部分も大きいと思うんですよ。契約も難しいだろうし。
A:1人でやらないきゃいけなくなったっていうことから、以前から考えてることに向けて動き出せたかな。で、この話をすると、ミュージシャンはみんな共鳴してくれる。でも、「じゃあやろうか」って言うと「契約」っていう縛りの中で動けない。
でも、音楽業界の活性化ができるなら、こんな良いことはないので、少し頑張ってみようかなと。少しではないな。かなり本気で思ってるかな。
吉:確かに大手の配信会社とかも還元率のパーセンテージがすごい低いんですよね。以前Podcast配信しようとしたんですよ。そしたら、全然こっちに入らないっていうのが分かって。
A:だって、フォーマットは1回組んでしまえば、後はサーバの問題でしょ。容量が増えていくだけだから。フォーマットもアプリケーション組むのも時間がかかるのは分かる。でも、作ってしまうと、高速道路と一緒で、ある時リクープできるわけですよ。そこからは全て利益となっていく。それをね、会社の生業としてやっていくんだとしたらアリなんだけど、僕らベンチャーじゃないから。
吉:うん。
A:音楽が90年代の時に重宝されていた時期をもう一度目指さなければいけない。みんな諦めてるから。音楽産業はもう終わったってみんな口を揃えて言うから。
吉:ライブでは稼げるけど、楽曲とかでは難しいっていう。
A:これから先、ライブができる人しか残らない。これは1つの在り方として間違いじゃない。でも、音楽には色んな種類があって、ライブが得意な人と、ライブはやらないけど楽曲作るのが得意な人と棲み分けがあるんだよね。でも、ライブができる人だけが、っていう単一指向へ動いていってる。常に選択がないといけない。
A:ちゃんと作った人に還元される。還元されたものでまた新しい音楽を作っていく。より良い環境で。例えば、弦にしても生弦をみんな使いたい。でも使うお金がない。なぜかというと楽曲を買ってもらえないから。制作費が限られた状況でしか作れないから、ゴージャスな音作りが出来ない。そして、どんどんお金が萎んでいく。こんな中でやれない、ミュージシャンは。
だから、そんなこんなで、無謀だとか、音楽業界に背いていることをやり始めていると早速言われはじめて。ある意味「敵」と呼ぼう。そういう人たちの影がちらつき始めてるんだけど、最終的にミュージシャンが集まって、ひとりひとりが個人商店で、独立して、ただ隣にお互いがいてっていう、いつの間にかそういう広がりになっていれば良いかな。それが全てだと思っていて。そういう意識改革をする時代なんだと思う。
吉:ASKAさん、そういう世の中の流れとかを考えるタイプだと思うんですよ。今思ったのは、SMAPの3人が「新しい地図」として、地上波メインじゃなくても芸能活動を続けていける時代になっていることを証明しているんですけど、ASKAさんはどう見てますか?
A:比重が大きいのはTVなんだけど、実のところ芯を食っているのは、見たいものにアクセスするという行動を起こさせるネットの力って大きいと思う。実は音楽番組もそういうところに来てて、もちろん大衆に音楽を聴いてもらうにはTVなんだろうけど、本当に心を打っていく、心を刺していく歌となっていくには、見たいと思う人達の気持ちに応えていくっていう、オンリーワンの時代だよね。そういう意味では、今回Abema TVの枠の中で初回に選んでいただいたことはすごく光栄で。これから音楽番組はネット番組が台頭していくんじゃないかって喋ってた矢先のことなので。番組の内容も聞かずにやろうって決めて。だから、逆指名っていう内容もあとから聞いて。その時に僕は1つ条件を出して。昔からこだわってきた「フルサイズで歌わせてくれるんだったら出演させてください」って、それだけだったかな。
吉:ある時期はTVサイズで歌ってたものの、元々はフルサイズで歌ってきた人ですもんね。
A:デビュー当時からどこか尖ってた部分があって、TVサイズにすごい抵抗があって。でも、TVサイズを受け入れなかったから、自分たちの輪郭を見てもらえるようになって。
例えば、SAY YESのヒットあたりから、今それをやると却って敵を作ってしまうんじゃないか、天狗になってると見えてしまうんじゃないかって思って、TVサイズを受け入れるようになった。で、現場スタッフも入れ替わりがあるでしょ、若いスタッフと。次の打ち合わせは知らないスタッフが来て、いきなりTVサイズ前提から話が始まる。もうそれが当たり前になっちゃって。結局自分たちの「世の中に対してこう映らなきゃいけない」っていう考え方っていうのは正解ではあるんだけど、諸刃の剣であって、今考えるとそれはやっちゃいけないことだったなって思ってるところもある。
吉:受け入れたことでバカ売れしたって言う部分もあるんですか?
A:いや、結局受け入れなかったことで自分たちの足場が作れたので、受け入れてしまったことで足場が崩れたと思ってる。そうは言っても、たくさんのシンガーが集まって、いろんなことを紹介するのがTV番組なので、気持ちはあれどそれを述べることはなくて、だったら出なければいいという考えに徹してた。もちろん必要な時はプロモーションと考えて、TVサイズというのはあるんだろうけど、必要じゃない時は出ないっていうことを強くやっていくことが、これから先の音楽生活の中で自分を表現していくことになるんじゃないかな。
吉:今のところ、九州のローカル番組に出て、そして、Abemaに出てっていう感じですか。
A:そうですね。福岡はね、初めてコンプライアンスの壁を味わって。もうマスコミの格好のネタで、どんどん広がって。
吉:匿名コメントが多いですからね。
A:自分のことをきっかけにかはわからないですけど、スクエアにかっ切りされた報道の外側を読むようになった、報道されてることが全てじゃないってことに気付いてくれだしたので。今回もAbemaTVに出していただいたりで、誤解が解けてきたし。やったことはもちろん悪いんですけど。そうじゃないところで接してくれる人が増えてきたので、そこに対してはちゃんと応えていこうかなと。だから今回の音楽配信っていうのも思い切ってできたんだと思う。
吉:ASKAさんって、昔からメディア不審みたいなものがあったりしたと思うんですけど。
A:ある時期からね。
吉:ある雑誌とちょっと揉めて、そのバトルをまるまる本にしたりして。
A:あれは世の中って言うよりも、ライブ活動をやってきて、僕らのことを本当に愛してくれてるオーディエンスがいて、何気に聴いてくれている次の予備軍みたいなオーディエンスもいて。でも、そのコアな人たちに誤解を与えたままじゃいけないと思ったわけ。だから、あの本は世の中に訴えるためではなくて。無いことをかぎ括弧を付けて記事にしてくるんだから、ちゃんと反論しないといけないなと思ったわけ。あ、それも(記事で)書いてくれたもんね。ありがたかったです。
吉:面白い本だったんですよ。
A:まあまあ、ここでね、そういうことを言ってもしょうがないので、未来を語りましょう。
吉:色々あって大変だったけど。
A:大変だったけど。僕は今、音楽を作ることに専念してて。で、今までのプロモーションではどれだけお金をかけても届かなかった世代が、皮肉にも事件をきっかけに音楽を聴くようになってくれて。ある程度の年齢、キャリアを持つと、色んな物を自分の中に抱えるけれど、失うものが1つだけあって、それが「新鮮さ」。絶対に入れることはできないから。「新鮮さ」を持っているのはデビューしたての人だけで、それからどんどん失っていくもの。でも、今回あの事件で2度目の「新鮮さ」を持ち合わせることができて。そこは大切にして、その層に向かってもちゃんと歌を歌っていかなきゃと思ってますね。
吉:人前で歌える喜びみたいなものものも改めて味わえた。
A:そうですね。
吉:プラスにするしかないですもんね。
A:今はね。背いちゃいけないこともしっかりあるので。と言って、そのことばかり考えて頭を垂れた人生というのは送りたくないので、やっぱり区切りは付けて。あったことはあった。でも前向いて行かなきゃっていう。
A:でも、そういう精神状態だとか起こったことだとか全部知ってくれているから、記事を見てて笑うところもあって、こんなところも知ってくれてるんだって(笑)。
吉:ファンクラブ会報から何から相当買ってますからね(笑)。
A:そうだったんだ。
吉:元々興味あったのが、事件きっかけでよりちゃんと調べようと思って。調べれば調べるほど好きになるんですよ。
A:ありがとうございます。
吉:面白いわこの人、って。そこを伝えたくなったんですよ。
A:読ませていただいています。
吉:良かったです、変に叩いたりしなくて。
A:(笑)いや、叩かれた人もね、それはとりあえず受け止めて。あの、バイキングの坂上くんがそうだった。彼も最初叩いてくる側だったから。でも彼を見てるとね、色んなことをフラットに言う人だから、「あ、叩いて当然だな」と。このフラットな坂上くんっていう人を知りたいなと思って、自分から会いたいってアプローチしたの。で、会うことになって、2、3時間喋ったのかな。すごくいい男だなと思って。そこから、事あるごとに連絡したりしてるんだけど。だから、叩かれても、却って面白いと思った人には会ってみたいなという気持ちは変わらないかな。
吉:ちなみに井上公造さんとかに対してもそういう感じ?
A:ない。
吉:あの野郎曲流しやがってとかもない?
A:ない。いや、ジョークジョーク(笑)。ここであまり語れないから。
吉:でもつい色々言ってしまうタイプ。
A:我慢できないからね。こういうところで場を共有すると、みんな仲間だと思ってしまうわけ。これが俺が騙されるところなのね。
吉:(笑)
A:もしかしたら敵になる人がいるかもしれないから、気をつけなきゃいけないんだけど。みんなでこう共有すると「よし、仲間だ家族だ」って言ってしまう俺はダメだよな(笑)。
吉:(笑)。でも、信用できますよ、そういうところも。
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